おすすめしたい本

中央公論新社 刊
【サイン本】52ヘルツのクジラたち(文庫版) | 町田そのこ 著

20年間、中央公論新社で『八日目の蝉』(角田光代 著)、『老後の資金がありません』(垣谷美雨 著)、『怒り』(吉田修一 著)、『三千円の使いかた』(原田ひ香 著)といった数々のベストセラーの宣伝プロモーションに携わってきた東山 健(ひがしやま・けん)さんがおすすめしてくれたのは、小説『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ 著、中央公論新社 刊)です。
心に傷を抱えた主人公の貴瑚は、東京から田舎町へ、祖母が遺した海が見える一軒家へと移り住みます。そこで、母親に虐待されて声が出せなくなった少年「ムシ」と出会い、「52ヘルツのクジラの声」を通じて心を通わせていく。「52ヘルツのクジラ」とは、ほかの仲間たちには聴こえない高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの”世界で最も孤独なクジラ”のこと。自身も家族に搾取されてきた過去をもつ貴瑚は、かつて自分の声なきSOSを聴き、すくいあげてくれた安吾との思い出を胸に、少年のたった一つの願いを叶えることを決意します。


2021年本屋大賞受賞になり、2024年3月に映画公開を控える本作ですが、東山さんが最初に読んだのは発売前のこと。本作の担当編集者から、「鼻血が出るほど号泣したので読んでほしい」とゲラ刷り(誤字脱字等をチェックするための校正紙)を渡されたのだそうです。発売時の書店営業のときも、東山さんと一緒に同行してまわるほどの情熱だったといいます。
「読んだ後、声なき声に気づくことができる人になりたい、人に優しくできる人になりたい、と強く思いました。
作品は、虐待を受けた人やトランスジェンダーなどの声なき声をすくいあげる話。
私たちの日常とは遠い話に思える方もいるかもしれませんが、見方を変えると日常にも”声なき声”はある、と思うんです。普段、表向きは明るくハツラツとしている仲間も、話を聞いてみると、実は育児や介護、または社内の人間関係で悩んでいたりと。こういう見落とされがちな”声なき声”を拾い上げられるよう、自分からも意識して、色々な人に声をかけるようになりました。
ぜひ、小説とあわせて映画も観ていただきたいです。映画の監督は『八日目の蝉』の成島出さんで、主演は杉咲花さんと志尊淳さん。映像になると、原作のすばらしい描写が、立体的になって違った角度から楽しめます。僕も何度も涙が込み上げてきました」

一方、東山さんも人からかけられる”声”に救われている経験があるといいます。
「10年前から年に一度参加しているフルマラソンで、声援がいつも限界以上の力をくれるんです」
「のこり10キロ地点くらいになると、足が進まなくなるんです。そんなとき、沿道から、おじいちゃんやおばあちゃん、子ども、お父さんお母さんたちがくれる『頑張れ!』って声援が聞こえると、気づけば足が前に進んでいるんですよ。どんなに辛くても、声は聞こえていて、声援をくれた人と目があうと、精神が奮い立つ。声がパワーになるんだって、初めて思いました。
新入社員が入ってくると、いつもこの話をするんです。ちょっとした会話や挨拶でも、前を向くきっかけになるんだって」


声なき声に耳を傾けることで、誰かが救われるかもしれない。声にすることで、誰かにパワーをあげられる存在になれるかもしれない。『52ヘルツのクジラたち』の物語は、あなたにとっての”声”のチカラに気づかせてくれるのではないでしょうか。
書籍・雑誌の宣伝プロモーション/中央公論新社
東山 健(ひがしやま・けん)さん
1975年、神奈川県鎌倉市生まれ。
日本出版販売株式会社を経て、現在は株式会社中央公論新社 社長室ブランド・プロモーション部長兼営業局販売推進部長。主に、中央公論新社の書籍・雑誌の企画・宣伝・映像化プロモーション・全国の書店の営業を管轄している。
携わってきた作品は、NHKドラマ、映画化『八日目の蝉』(角田光代 著)、映画化『怒り』(吉田修一 著)、2023年フジテレビ系ドラマ化『三千円の使いかた』(原田ひ香 著)、2023年年間ベストセラー新書部門1位『日本史を暴く』(磯田道史 著)、2021年本屋大賞受賞、2024年映画化『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ 著)など。